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脇昌彦の水彩絵日記

折々に思い感じたことを記した絵日記

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No.72 遥かなる山々

冬明けぬ木曽駒
「冬明けぬ木曽駒」 F6

 私が最初に山に登ったのは、中学2年生時の那須の茶臼岳だ。同級生にAという都会からの転校生がいた。その姉が勤務する会社の登山倶楽部を主宰していて、夜行2泊の登山に行くと言う。彼も同行することになって私を誘ったのだ。彼はやることなすこと大人びた奴で、私は何時も驚かされていたが、今度もそうだった。本格的な登山をするつもりになったらしく、登山靴やコッフェル、ニッカボッカ、石油コンロ、テント、寝袋、横長のリュックなどを買い集めて得意げに見せてくれた。どれもが私が初めて目にするものばかりであった。その頃私は古くなった運動靴一足がなかなか買替えて貰えなかったし、それどころか登山そのものが全く別の世界であった。
「道具の使い方の練習に、磯根山で一泊するぞ。一緒に来いよ」
放課後に彼が言った。有無を言わせない。
 東京湾を見下ろす磯根山の鞍部でテントを張って二人で一泊した。テントを上手く張れない。石油コンロは一時間も苦労の末やっと燃え上がった。何もかも石油臭くて、結局飯は食えなかった。中途半端に張ったテントの中で、空きっ腹で寝袋に潜り込んで寝た。眼下に広がる暗い夜の東京湾には、無数の漁り火が光っている。タンカーや対岸の灯が幻想的で奇麗だった。
 登山の当日は好天に恵まれて、夕方夜行列車で出発した。明け方に黒磯駅に降り立ち、そこから朝靄の漂う茶臼岳の山麓の熊笹の原を、一列縦隊で登って行った。男女合わせて15人程であった。
出発前の荷物の振り分けの時、Aの姉が
「大丈夫?無理をしなくていいのよ」
 と心配してくれたが、私は若い女性の手前見栄を張って、大きなリュックと西瓜を持ったのだった。次第に息が切れて、リュックが肩に食い込んで痛くなった。全身に汗をかき始めた。傾斜も随分きつくなってきた。手にぶら下げた西瓜がやたらに重い。西瓜を縛っている紐が手のひらに食い込んできた。何度も持ち替える。ここで弱音は吐けないと歯を食いしばって我慢していた。その内に限界が来てしまいそうであった。見栄を張ったのを何度も後悔した。もう駄目だと座り込んでしまいたかった。上を見上げると山頂は遥か彼方だ。その時、突然どすんと大きな音がして、西瓜が足下に落ちて割れた。
「あ~!」
 と私は叫んだ。西瓜の紐が熊笹の朝露で湿って切れたのだ。
「あ~あ!しょうがないわね。それじゃ~ここで休憩して皆で食べましょ!」
 Aの姉が言った。
私はこれで救われると心底嬉しかったが、それはおくびにも出さなかった。
そのときの西瓜の味は今でも忘れない。美味かった~!
それからの私はすっかり元気になった。その晩はランプの宿、三斗小屋温泉に泊まった。翌日は河原でテントを張って一泊した。
 このときの経験は鮮烈に記憶している。山の魅力を初めて知った。しかしその後私は、奥多摩、奥武蔵、丹沢、伊豆の山を15座程登ったきりで山登りは止めてしまった。今はもっぱら遥かに眺めて描くだけである。それでも山は何時も魅力的で、何故かロマンチックだと思う。







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No.71 美なるもの

残雪の唐松岳
「残雪の唐松岳」 F6


 昨年の五月に平川橋の上から此の絵を描いた。雪解け水が音を立てて流れて、時折冷たい谷風が吹き下ろして、息を吸うと湿った雪と唐松の新緑の薫りがする。裾野まで残雪が覆い、その雪模様が美しい。2時間程描いたろうか? 此の絵を見ていると、その時の鮮烈な記憶が甦ってくる。
 叙事的な記憶は永く残るが、生々しい感動は急速に薄れて忘れてしまう。文字に記録しても、その感覚だけはどうしても行間から漏れてしまう。それこそが生きる意味を支えてくれる唯一のものだけれど。だからこそ、すこしでも記憶に止めようとして絵を描く。
 あれから夏秋冬を巡り、丁度1年の歳月を過ごしただけなのに、なぜか5~6年も過ぎた様な気がする。雑事に追われて、煩わしく慌ただしい日々であった。生きて行くというのはそういうことだと思いながら、毎年初夏になると何もかも放り出して、此の美しい自然の中に心ゆく迄身を浸したい、という強い衝動に駆られる。



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プロフィール

脇 昌彦

Author:脇 昌彦
水彩画廊 suisaiga.jpを是非御覧ください。



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